εに誓って SWEARING ON SOLEMN ε (講談社文庫)

εに誓って SWEARING ON SOLEMN ε (講談社文庫)

山吹早月と加部谷恵美が乗車していた東京発中部国際空港行きの高速バスがジャックされた。犯人グループは、都市部に爆弾を仕掛けたという声明を出していた。乗客名簿には《εに誓って》という名前の謎の団体客が。《φは壊れたね》から続く不可思議な事件の連鎖を解く鍵を西之園萌絵らは見出すことができるのか?最高潮Gシリーズ第4弾。


このシリーズが飽くまで淡々と語られるのならば、読者の私も淡々と読み進めようではないじゃないかシリーズ。一作ごとに腹を立てるのはエネルギーを消費するだけで賢明ではございません。細かい箇所ばかりに気を取られて、木を見て森を見ずにならないように。相手は「森」でございますのよ。オホホホ。
バスジャックという非現実的な出来事に遭遇してもパニックを起こさない乗客たち。これも森博嗣らしい知性で統御された人間像かと思い感心してましたが…。
途中まではミステリというよりも完全にサスペンス。「何かある」と思わせるが、何もないままバスは目的地に近づく。そして主要登場人物は「そうならない」、そんな残酷な結末は用意されてないはず、とメタ視点で冷静に考えていたはずの私でしたが、終盤は見事に息を呑まされた。ハイ、騙されました。ミステリを読む最大の目的が達成されたわけだから喜ぶべき事なんだけど…。手に汗握ったその真相披露を10ページで済ませてしまうのが、肩の力が適度に抜けた森博嗣らしいかな。それは肩透かしとも換言できますが…。相変わらず動機や事件の結末を一切排除した無駄のない構成。いや、今回は無駄はたくさんあるか。事件全体の前後はバッサリ切っているが、バスの出発時間に遅刻しそうな加部谷から、加部谷の乗るバスの乗客の描写まで解決に必要な情報は過不足なく書かれている。割と「本格的」だなと思った。また海月の推理過程がかなり好き。起こった事を順番通りにゼロから考えて、たどり着く真相というのが単純ながら盲点だった。
本書で、ようやくこれまでの作品たちが造り出す「森」の輪郭もおぼろげながら見えてきた。果たして、この森の深さはどれぐらいで、出口はどこにあるのだろうか。これで最終的にも森が浅く、出口が次の森への入口だったりしたら、さすがの私も怒りましょう。いえいえ、ワタクシ信じてますのよ、森さんを。オホホホ。

εに誓ってイプシロンにちかって   読了日:2006年11月14日