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- 作者: 近藤史恵
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/06/09
- メディア: 文庫
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深く刺さった、小さな棘のような悪意が、平和なオフィスに8つの事件をひきおこす。社会人一年生の大介にはさっぱり犯人の見当がつかないのだが…。「歩いたあとには、1ミクロンの塵も落ちていない」という掃除の天才、そして、とても掃除スタッフには見えないほどお洒落な女の子・キリコが鋭い洞察力で真相をぴたりと当てる。
コギャル清掃員(死語?)キリコとオペレータールームに配属された新入社員の梶本大介が事件を解決する短編集。社内を縦横無尽に回れるという清掃員という設定が段々活きてきて気軽に楽しめるミステリ。清掃員という点で本田孝好の『MOMENT』を思い出す。ただ30ページ弱の短篇であるがために事件と解決が直列に繋がっていてミステリとしては安直な感じが否めない。そして1つの会社でこんなにトラブルが発生するのは健全な会社じゃないぞ、と思わずにはいられない。風変わりなキリコと実直な大介のコンビを純粋に楽しめばいい。そうすると最後の短篇は驚きが増す。いきなり哀愁を漂わせています。
追記:この続編が出ているらしい。キリコはどうなっているのだろうか?
- 「オペレータールームの怪」…大介は女性ばかりの職場に困惑の日々。そんな中、彼の書類が次々と紛失するという事件が起きて…シリーズ化を考えてなかったのかもしれないと思う結末。動機も分かるような分からないような。
- 「ピクルスが見ていた」…深夜の会社で会社をよく訪れる保険会社のおばさんが殺された。しかも事件の起きたと思われる時間にキリコと大介は会社にいた。また動機がいまいち。しかし清掃員という設定が十分に活きている。
- 「心のしまい場所」…大介の同期の結婚式の引き出物トラブルで知った社内でも輪を広げようとするマルチ商法の存在。人はなぜ甘言に惹かれるのか。マルチ商法の手口と実態が分かって面白かった。ラストは変わりすぎかな?
- 「ダイエット狂想曲」…オペレータールームに派遣された女性が、早朝オペレータールームで倒れていた。彼女は転んだ、と言い張るが…タイトル通りダイエットの悲喜こもごも。社会からの刷り込みで培われた美感って怖い。
- 「ロッカールームのひよこ」…ロッカーから大した物を盗まない泥棒。そして後日キリコと大介が見つけたひよこ。一体ロッカールームに何が?する方が悪いが、黙るのも罪か。後味悪し。大介くんが段々ただのお喋りになってる…
- 「桃色のパンダ」…他の部の部長が娘にプレゼントするために置いていたピンクのパンダの人形が切り刻まれていた。人好きする部長だけれど、実は彼は不倫していて…何でも会社のゴミ箱に捨てているご都合主義には目を瞑ろう。
- 「シンデレラ」…連日トイレが汚されるという事件が起こる。キリコに恨みを持った者の犯行なのか?大介が解決する初めての事件。男だからこその推理。人のキレイな面だけ見て生きるなんて事はどこかで目を背けなきゃできない。
- 「史上最悪のヒーロー」…時が移り、キリコは会社から去り、大介は新しい部署に移り結婚をした。妻を愛しているが妻の自由を奪ってしまった大介は妻への申し訳ない気持ちから、妻を避ける…怒涛の新展開。読んでいて喪失感を感じずにはいられない。なぜ、どうして?という気持ちを抑えずに読むのは難しかった。