火蛾 (講談社ノベルス)

火蛾 (講談社ノベルス)

中世の中近東。修行者たちの殺人。第17回メフィスト賞。 かつて誰も見たことのない本格世界が展開する。 12世紀の中東。聖者たちの伝記録編纂を志す作家・ファリードは、取材のため、アリーと名乗る男を訪ねる。男が語ったのは、姿を顕(あら)わさぬ導師と4人の修行者たちだけが住まう山の、閉ざされた穹廬(きゅうろ)の中で起きた殺人だった。未だかつて誰も目にしたことのない鮮麗な本格世界を展開する。


「火蛾」は「彼我」なのか。対話から導き出される真実。
頭がグワングワンしてくる小説。この表現だと訳の分からない、不出来な小説を連想されるかもしれませんが、むしろその逆です。出来の良すぎる小説だと思います。設定は12世紀の中東のイスラム教修行場。冒頭はイスラム教に関する知識など堅苦しい文章が続きますがそれは全て必要な知識。どっかの小説みたいに薀蓄を語っているのではありません。この知識を踏まえるからこそ物語に厚みが増します。知識と、そして論理がある1つの真実を照らす。照らし出された解答はこの世界の真理なんじゃないかと、思うぐらい気持ちが昂りました。こんな出来のいい小説、滅多にありません。神の奇跡かも、アッラー
この構成力は類稀なものだと思います。イスラム世界を舞台にしながら本格ミステリに仕上げる力、これはスゴイです。設定から世界を構築するというのは(今回は本当にありうる宗教の一つの教えですが)、西澤保彦さんと似ているかもしれません。こういうルールがあるから、こうなるという論理的解釈。ミステリの幅を広げる素晴らしい作品です。私の感じた面白さは、どんな言葉を尽くしても誰にも伝わらない、これが真理です。というのが本作の感想。言葉とは意思を相手に伝達するのを目的にしていてるのに、媒介がいる時点で相手の解釈に飲み込まれている矛盾。新作が読みたい作家さんなんですけど、いつまでも出ない…。「崑崙」とかなんとかタイトルまで決まってた作品はどこへいったのか?早く出して!

火蛾ひが   読了日:2001年05月16日